岐阜の地で生きること

この町で古くから商いを続ける者のなかには『家系に脈々と流れる心意気』が知らず知らずのうちに自身に染み込んでいるのだと感じる。自分の意志で生きていたとしても、意図せず先祖と同じ生き方や働き方に身を置いていることが、岐阜町の人間にはあるらしい。



梅雨の晴れ間、夕暮れ時におかっての戸を開いたのは、「伊奈波商會」の金森さん。

先代から継いだ包装資材の製造卸売を担いつつ、“長良川サイダー”などの商品を手がけています。岐阜のおみやげ「大地のおやつ」の包装にも関わる伊奈波商會は、江戸時代より十二代続く岐阜の家系。刀鍛冶のルーツから、茶道具や生糸、そして梱包資材へと、時代の流れとともに変化しながら岐阜のまちで商売を営み続けています。人びとのニーズに応えるべく、分野に囚われず柔軟に姿を変え商売を生業とする心意気は、伊奈波商會がこれまで途絶えることなく続いてきた証だと言えます。そんな家系に生まれた十二代目の金森さんもまた、新しい時代の商売として長
良川への想いを込めたサイダーを生み出しました。
商品そのものに個性がある“サイダー”と、個性を持たない“包装資材”。そのどちらもを扱い生業としている金森さん。「サイダーを選んでもらえる喜びと、包材を選んでもらえる喜びは違う」と語ります。サイダーを選ぶお客さんは、サイダーそのものの個性に魅力を感じて選びます。一方で、包材のような、一見すると個性がない商品を選ぶとき、私たちはそれを扱う人の人柄を見ているはず。商売に限らず、人と関わる上でも人柄やキャラクターというのは重要なものです。「自分を選んでくれた」という感覚は原動力になります。
岐阜の地で生まれ育った金森さんは、生業を続ける上でこのまちに特別な想いはないと言います。「ここで生まれたから」。そのシンプルな理由からは、先祖や家といったものに縛られることなく、その“当たり前”の感覚をそのまま当たり前として守っていく印象を受けました。「〜のために」といった言葉では表現できない、身体に染み込んだ感覚に素直に従う姿勢には、一人の個人としての姿とともに十二代目としての歴史ある背景が滲んでいました。


長良川サイダー、タンサンに続き、新商品の企画も始まっているそう。伊奈波商會の若旦那には、その時代の人びとが求めるものをこの岐阜の地から生み出していこう、という心意気が満ちています。

コミュニティハウス おかって

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